自然に寄り添う園舎
そこは、桜の大木が優しく寄り添うオープンテラスが広がる空間、高い位置にある桜の葉や枝に触れることや、風が吹いたら風を感じ、 雨が降れば雨の匂いがする、至るところで動き回り羽を休める生き物の姿を見ることができる空間です。 五感を使って感じることは、普段あまり意識しないこともかもしれませんが、一つひとつの感覚を思いっきり使って感じる体験は、感性を育み幼児期の思い出に深く刻み込まれるのではないでしょうか。 春・夏・秋・冬と移り変わる季節に応じてそんな体験が存分にできる環境でありたいと願います。
記憶に残る場を
子供たちの生活の場は安全であること、楽しく学べる場であること、そして何よりも、幼い時を過ごす場として「記憶に残る場」であることが大切です。
自然と優しく関わる「ソラの庭」
まち中にありながら、大きな桜の木たちに囲まれた〈都会のオアシス〉。何十年もの歴史を湛えた樹木たちに護られながら、子供たちは生活の中で自然に木々と触れ合います。小鳥のように高い位置から木の枝に触れたり、遠い山並みを望みながら、陽に輝く緑の葉陰や、舞い散る落ち葉たちを追いかけて遊びます…。2階建てだからこそ実現できた屋上園庭は、空に近づくことの出来る、まさに子供たちにとっての「ソラの庭」です。
遊びを発見させる場「虹のテラス」
自然の樹木や小動物や、空や地べたと優しく関わることで、この建築は子供たちに自ら「遊び」を発見させる場となっています。 園庭に続く屋根の下に大きくうねりながら広がる地上階のテラス空間。虹のように色とりどりに点在する下足入れは、子供たちが見通す視界を優しく遮ることで空間に重なりを加え、鬼ごっこなどの「迷路遊び」へと誘います。モザイク模様で立ち上がる水飲み場も足洗い場も、そして下足入れさえもが、それぞれの機能を超えて、子供たちに「遊び」を発見させるための素材となっています。
集落のように、「パオ」のように
オレンジ瓦の載った三角屋根。真っ白な外壁。樹木の緑に見え隠れしながら、園舎は西欧の集落のようにきらきらと点在しながら連なっています。 園庭では小動物たちが、子供たちと共に暮らしています。まるで遊牧民のパオのように、遊具や樹木たちと混じり合う、動物たちの「棲家」の群れです。夕暮れ時にはこの特別な小屋たちは行燈のように暖かな「灯り」となって、子供たちを照らし出します。
建築化された遊具「ぐるぐる」
地上階の「虹のテラス」と2階の「ソラの庭」とをつなぐ大きな滑り台のついた階段「ぐるぐる」。 子供たちが駆け上り、滑り降りるこの大きな〈空間装置〉は、地上階と屋上階とを機能としてではなく、 「遊び」という要素で一体化させています。空間の縦と横とを繋ぎ合わせ、園舎そのものを遊具化しているのです。 階段という建築要素と子供たちの遊具との融合。こうした手法は空間の立体的な使い方を強いられる都市型幼稚園にとって、 これからの新しい空間づくりのヒントであり、プロトタイプ(基本型)となるだろうことを示唆しています。